いまのやり方をそのまま自動化すると、非効率が仕組みとして固定されます。 先に業務フローを整理し、工程を棚卸ししてから自動化の対象を選ぶと、開発の範囲が小さくなり、費用も期間も縮みます。この記事では、整理の4ステップ、自動化候補を選ぶ4条件、個人情報を扱う工程の線引き、そして士業事務所の受付部門を例にした棚卸しの実際をまとめます。想定している読み手は、AI開発の発注や稟議を判断する担当者の方です。
整理を先にやる理由
総務省の令和7年版 情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用している企業の割合は日本で55.2%、「メールや議事録、資料作成等の補助」に使っている割合は47.3%です(2024年度調査・「業務で使用中」と回答した割合)。一方、導入に際しての懸念事項として最も多く挙がったのは「効果的な活用方法がわからない」でした。使い始めた企業は半数を超えているのに、どこに使えば効くのかが分からない。この構図は、業務の中身を分解せずにツールから入ると起きます。
自動化の発注でも同じことが起きます。「この業務を自動化したい」と依頼を受けて中身を見ると、工程の半分は転記と確認の繰り返しで、そもそもなくせる作業だった、というケースは珍しくありません。なくせる工程をそのまま開発すると、その分の開発費を払ったうえで、無駄な工程が今後も動き続けます。
整理を先に行うと、次の3つが変わります。
- 開発の対象が「業務全体」から「残った数工程」に絞られ、見積りが下がる
- 各工程の判断基準が言葉になるので、要件定義がそのまま書ける
- 整理だけで解決する工程が見つかり、開発せずに済むことがある
3つ目は実際に多く、当社の初回相談でも「この業務は開発しないほうがよい」とお伝えすることがあります。
整理の4ステップ
| ステップ | 内容 | 開発の要否 |
|---|---|---|
| 1. 書き出す | 現在の工程をすべて並べる | 不要 |
| 2. なくす | 不要な工程を消す | 不要 |
| 3. まとめる | 分かれている工程を統合する | 不要(連携が要る場合のみ開発) |
| 4. 順序を変える | 待ちが発生している順序を見直す | 不要 |
| 5. 自動化候補を選ぶ | 残った工程を4条件で判定する | ここから開発を検討 |
この順で進めてください。 順序を変えることから始めると、なくせる工程まで並べ替えの対象にしてしまいます。「なくす」を「まとめる」より先に置いているのも同じ理由で、統合してから消すより、消してから統合するほうが手戻りがありません。
ステップ1:書き出す
実際の作業を見ながら、次の形で工程を並べます。口頭の説明ではなく、担当者が普段どおりに作業している画面を横で見ながら書いてください。説明と実際の手順は、たいてい食い違います。「たぶんこうやっています」の「たぶん」の部分に、後で開発を止める例外処理が隠れています。
| # | 誰が | 何をする | 何を使う | 時間 | 判断 | 個人情報 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 営業担当 | 受注メールを確認 | メール | 2分 | なし | あり(顧客名) |
| 2 | 営業担当 | 内容を表に転記 | 表計算ソフト | 5分 | なし | あり |
| 3 | 営業事務 | 内容を確認 | 表計算ソフト | 3分 | あり(基準未整理) | あり |
| 4 | 営業事務 | 基幹システムに入力 | 基幹システム | 8分 | なし | あり |
書き出しの粒度は「1つの操作画面で完結する単位」が目安です。細かすぎると数が膨れ、粗すぎると判断の有無が見えません。「判断」の列は自動化候補を選ぶときに効くので、面倒でも埋めてください。担当者が見て決めている工程は、その判断基準を担当者に言葉にしてもらいます。言葉にならない判断は、この段階では「あり(基準未整理)」と書いておけば十分です。「個人情報」の列を設ける理由は後述します。
例外的な処理も別枠で控えておきます。「基本はこう、ただし月末だけ違う」「この取引先だけ書式が違う」といった分岐は、開発費と期間を直接左右する要素です。例外が10通りあれば、それを扱う設計が10通り必要になります。
ステップ2:なくす
各工程に「これがないと何が起きるか」を問います。
| 質問 | なくせる可能性 |
|---|---|
| この確認をやめると、実際に問題が起きたことがあるか | 起きていないなら、なくせる |
| この転記の先を、誰か見ているか | 見ていないなら、なくせる |
| この承認は、実際に差し戻されたことがあるか | ないなら、簡略化できる |
| この帳票は、いま使われているか | 使われていないなら、なくせる |
「念のため」で残っている工程は実際に多くあります。 過去1年で一度も問題にならなかった確認は、なくすか頻度を下げる候補です。ここで抵抗が出やすいのは「万一のとき責任を問われる」という不安ですが、その場合は「誰が・どの頻度で・何を見るか」を決め直せば、毎回の確認をなくしても管理はできます。
なくした工程は、開発の対象から外れます。ここで3工程消えれば、見積りは3工程分下がります。整理の中で最も費用効果が大きいステップです。
ステップ3:まとめる
同じ人が別々のタイミングでやっている作業、複数人が同じ内容を確認している作業を探します。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 2人が同じ内容を確認している | 1人にする |
| 同じデータを2箇所に入力している | 片方にする、または連携する |
| 週次と月次で同じ集計をしている | 1つにまとめる |
| 電話・メール・来所で記録の書式が違う | 書式を1つにする |
「同じデータを2箇所に入力」は最も見つけやすく、効果も大きい項目です。入力先が2つあると、片方だけ更新されて食い違いが起き、その食い違いを見つけるための確認工程が増え、その確認はなくせない、という連鎖になります。入力を1箇所にすると、確認工程も一緒に消えます。
ステップ4:順序を変える
待ちが発生している箇所を探します。
- 承認を待っている間、後続の作業が止まっている
- 月末にまとめて処理するため、月末だけ負荷が集中している
- 他部署の作業が終わるのを待ってから着手している
順序を変えるだけで解決することがあります。 たとえば承認を「事前」から「事後」に変えると待ちがなくなります。金額の小さい案件は事後報告にし、一定額以上だけ事前承認にする、といった線引きです。月末集中は、日次で小分けに処理する順序に変えれば平準化できます。いずれも開発は要りません。
自動化候補を選ぶ4条件
残った工程のうち、次の条件に当てはまるものが自動化の対象です。
| 条件 | 確認の仕方 | 満たさないときの扱い |
|---|---|---|
| 1. 判断が入らない、または判断基準が明確 | ステップ1の「判断」列が「なし」か、基準が言葉になっている | 基準を言葉にしてから再判定。できなければ人に残す |
| 2. 毎回発生する | 週・月の発生回数を数える | 年数回なら手作業のままでよい |
| 3. 時間がかかっている | 1回の分数×月の回数で月あたり時間を出す | 短いなら優先度を下げる |
| 4. 間違えても取り返しがつく | 誤りが出たとき、誰がどう直せるかを言える | 最初の1件からは外す |
4番目は最初の1件では特に重要です。取り返しのつかない工程から始めると、検収も運用も慎重になりすぎて進みません。まず「間違えても人が直せる」工程で動かし、精度と運用の感覚をつかんでから、影響の大きい工程に広げるのが順序です。
4条件をすべて満たす工程が複数あれば、月あたりの所要時間が長いものから着手します。時間は「1回あたりの分数×月の回数」で出せるので、ステップ1の表があればその場で計算できます。小さく始める進め方は業務自動化PoCの進め方にまとめています。
個人情報を扱う工程は先に線を引く
棚卸しの表に「個人情報」の列を加えることを推奨する理由がここです。生成AIに個人情報を渡す工程は、自動化の可否より先に、法令上の扱いを確認する必要があります。
個人情報保護委員会は2023年6月2日付の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者に対して2点を挙げています。1つは、個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること。もう1つは、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービス提供事業者が当該データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること、です。
つまり「どのAIサービスを使うか」の選定と「入力データが学習に使われない契約か」の確認は、開発の前段で済ませておく事項です。棚卸しの段階で個人情報を扱う工程に印を付けておけば、開発会社への見積り依頼の時点で「この工程は学習利用なしのAPI経由に限定」「保存先は国内」と条件を書けます。後から判明すると、設計をやり直すことになります。確認項目の一覧はAI開発のセキュリティにまとめています。
棚卸しの想定例
例:士業事務所の受付部門で電話・メール・来所の一次対応を棚卸しする
士業事務所の受付部門を例に、棚卸しの流れを追います。想定は、有資格者数名と事務スタッフ数名の事務所で、受付担当が電話・メール・来所の一次対応を兼ねている状況です。特定の事務所の実績ではなく、この規模の事務所で典型的に見られる形を組み合わせた想定例として読んでください。
| 業務 | 頻度 | 判断 | 個人情報 | 4条件の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 電話の用件聞き取りと担当への取次ぎ | 毎日・多数 | あり(緊急度の見極め) | あり | 候補外(判断が残る) |
| 電話の伝言を紙とチャットに記録 | 毎日 | なし | あり | 紙をなくす(ステップ2) |
| 受信メールの用件分類と担当への転送 | 毎日・多数 | あり(基準は2軸で明確) | あり | 候補(分類と下書き) |
| 既存顧客への定型返信 | 毎日 | なし | あり | 候補(下書き・送信は人) |
| 来所予約の確認連絡 | 毎日 | なし | あり | 候補(前日夕方に自動送信) |
| 新規相談の受任可否の判断 | 週数回 | あり(有資格者の判断) | あり(要配慮情報を含み得る) | 候補外 |
| 相談内容の要約作成 | 週数回 | あり | あり(要配慮情報を含み得る) | 候補外(外部AIに渡さない) |
ステップ1で書き出すと、一次対応は「電話の受付と取次ぎ」「メールの確認と振り分け」「来所の予約確認と案内」の3系統に分かれ、それぞれに「用件を聞く」「担当を決める」「伝える」「記録する」の4工程が並ぶ形になります。書き出してみると、電話の伝言を紙のメモとチャットの両方に書き、メールは受付担当が振り分けたあと担当者がもう一度全文を読んでいる、という形になりがちです。口頭では「メールは振り分けるだけ」と説明される工程です。
ステップ2の「なくす」では、紙メモとチャットの二重記録のうち紙をなくす判断になります。「なくすと何が起きるか」を問うと、紙を見返す機会が過去1年なかった、という答えが返る想定です。ステップ3の「まとめる」では、電話・メール・来所で別々になっている記録の書式を1つに統一します。ステップ4の「順序を変える」では、来所予約の確認連絡を当日朝から前日夕方に前倒しし、当日の無断キャンセルに受付が振り回される時間を減らします。ここまでで開発は使いません。
残った工程を4条件で見ると、自動化候補は2つに絞れます。1つは、受信メールの用件分類と定型返信の下書き作成です。分類基準は「既存顧客か新規か」「書類の受領連絡か相談か」の2軸で言葉にでき、毎日発生し、下書きは人が送信前に見るので間違えても直せます。もう1つは、予約リマインドの自動送信です。判断が入らず、毎回発生し、誤送信しても人が訂正の連絡を入れられます。
一方、新規相談の受任可否の判断や、相談内容の要約は候補から外します。受任可否は有資格者の判断そのものであり、相談内容には要配慮個人情報が含まれ得るためです。日本弁理士会の「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(2025年4月)は、外部事業者が提供する生成AIに秘密情報を入力する行為は第三者への開示に当たり守秘義務に違反するおそれがあると整理し、利用するサービスが入力情報を学習に利用するかを確認するよう求めています。また、生成結果の正確性は担保されたものではなく、内容の検討・精査をせずにそのまま依頼者に提供することは善管注意義務に違反する恐れがあるとしています。士業の種別は違っても、守秘義務のある業務で外部AIに何を渡し、何を人に残すかの線引きとして、そのまま参考になります。
自動化候補に選んだメールの分類・下書きも、個人名や案件名を含みます。そのため見積り依頼の条件に「学習利用なしのAPI経由・保存先は国内・送信は人が行う」と明記します。当社サイトで運用しているAIチャットも同じ考え方で作っており、回答の根拠を自社の公開情報に限定し、それ以外は人に引き継ぐ設計です。受付業務では「賢く答える」より「引き際を決める」ほうが効きます。この設計の詳細は問い合わせ対応のAI自動化開発、士業事務所の他業務への広げ方は士業事務所のAI開発活用に書いています。
整理の結果を開発に渡す
整理した内容は、そのまま発注時の資料になります。
- 整理後の工程一覧(誰が・何を・何で・何分・判断の有無・個人情報の有無)
- 自動化の対象にする工程と、その選定理由
- 各工程の判断基準(言葉になっているもの、なっていないもの)
- 例外的なケースの一覧
- 間違いが起きたときに気づく人と、直す手順
この5点があると、見積りの精度が上がります。開発会社が業務を聞き直す時間が減るので、要件整理の費用も下がります。最後の項目は抜けやすいのですが、「間違いに気づく人がいない自動化」は運用に乗りません。棚卸しの段階で決めておいてください。要件定義の観点はAI開発の要件定義に、検収基準の決め方はAI受託開発の進め方にまとめています。
誰が整理するか
2名で行ってください。実際にその業務をやっている担当者と、業務を横断的に見られる人です。担当者だけだと現在のやり方が前提になり、「なぜこの確認があるのか」を問えません。外部の人だけだと実態が分かりません。この2名が一緒に画面を見ると、なくせる工程が見つかります。
時間は1業務あたり半日が目安です。実際の作業を見ながら工程を書き出し、それぞれの必要性を確認する形で進めます。ここに半日かけると、開発の工数と見積りの往復が減ります。
当社の関わり方と費用
初回相談では、まず現在の業務を伺い、整理だけで解決するか、開発が必要かを切り分けます。整理だけで解決すると判断した場合はその旨をお伝えします。開発が必要な場合、1業務に絞った業務自動化ミニ開発(300,000円〜・税抜・単発)から始めることを推奨しています。
| プラン | 料金 | 初期費用・契約条件 | 含まれるもの |
|---|---|---|---|
| 業務自動化ミニ開発 | ¥300,000〜(税抜・単発) | — | 1業務の自動化ツールを設計・開発/例: 見積書生成・日報集計・レポート自動作成/要件整理から納品まで2〜4週間/納品後1ヶ月の動作フォロー付き |
| AI組込み開発おすすめ | ¥800,000〜(税抜・要件見積) | — | 社内チャットボット・RAG(社内ナレッジAI)/Claude・GPT・Gemini API統合/業務アプリ・ダッシュボード開発/開発期間1〜3ヶ月・保守プランは別途 |
| AI開発顧問 | ¥300,000/ 月(税抜) | 契約期間 最低3ヶ月(以降1ヶ月単位) 最低期間の総額 ¥900,000(¥300,000×3ヶ月) | Claude Code環境構築・開発伴走/社内メンバーの内製化支援/月次の開発ロードマップ設計/チャット相談・コードレビュー |
棚卸しを自社で進めるのが難しい場合は、AI開発顧問(300,000円/月・税抜・最低3ヶ月)で、整理から要件化、内製化までを伴走する形もあります。初回30分の相談は無料・オンライン対応・秘密厳守です。棚卸しの表が途中でも構いません。
商談で聞かれる質問
Q1. 事例はありますか
当社自身の事例をお見せしています。500ページ超の自社サイトを、記事の自動公開パイプラインとAIチャットまで含めてAIで開発・運用しており、この記事も同じ仕組みで公開されています。この仕組みを作る前に行ったのが、本記事の棚卸しそのものでした。記事の執筆・校正・公開・検索エンジンへの通知という工程を書き出し、人の判断が要る校正だけを残して、それ以外を自動化しています。顧客の業務に当てはめた進め方は、初回相談でその業務を伺ってからご説明します。
Q2. 整理はどこまでやってもらえますか
初回相談では、困っている業務を伺い、整理で済むか開発が必要かの切り分けまで行います。棚卸しの表作りそのものを一緒に進める場合は、業務ヒアリング(1〜2回)として開発の見積りに含めるか、AI開発顧問の中で継続的に行うかのいずれかです。整理の結果、開発が不要と分かった場合はそこで終了して構いません。
Q3. 依頼前に何を準備すればよいですか
ステップ1の表が1業務分あれば十分です。なくても、「その業務に月何時間かかっているか」「誰がどんな判断をしているか」「間違いが起きたら誰が気づくか」の3点を答えられる状態なら、初回相談で一緒に表を作れます。実際の作業画面を見せていただけると、進みが速くなります。顧客名などはマスキングで構いません。
まとめ
- そのまま自動化すると非効率が仕組みとして固定される
- 順序は「書き出す → なくす → まとめる → 順序を変える」。開発の検討はその後
- 実際の操作を見ながら書き出す。説明と実態は食い違う
- 自動化候補は「判断基準が明確・毎回発生・時間がかかる・取り返しがつく」の4条件で選ぶ
- 個人情報を扱う工程は棚卸しの段階で印を付け、学習利用なしの環境に限定する
- 整理は担当者と横断的に見られる人の2名で、1業務半日を目安に行う
初回30分の相談は無料・オンライン・秘密厳守で承っています。
出典
- 総務省「令和7年版 情報通信白書 企業におけるAI利用の現状」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日) https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
- 日本弁理士会「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(2025年4月) https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/04/AIservices-guideline.pdf